緊急!

「実教出版教科書問題に関し、違法不当な東京都教育委員会を訴える会」
(略称「都教委を訴える会」)より、お願いです!
よびかけ文
請求人用紙   PDF
申告人用紙   PDF
10月18日報道 PDF
監査請求
公取委申告

東 京 都 職 員 措 置 請 求 書

2013年10月17日

東 京 都 監 査 委 員   殿

監査請求人 佐  藤   昭  夫
高  嶋   伸  欣
他 別紙目録記載者

T 請求の趣旨

【1 措置を求める職員・機関】

  @ 東京都教育委員
      (木村 孟・内館牧子・竹花 豊・乙武洋匡・山口 香・比留間英人)
A 東京都教育委員会事務局

【2 違法不当な財務会計行為と東京都の損害】

(1) 事実の経過

 @ 上記の教育委員は、2013年6月13日の懇談に於いて、
     「来年度都立高校の日本史の授業に於いて使用する教科書として、実教   出版(株)発行の『高校日本史A』『高校日本史B』は適切ではない」
旨、全員で決した。
A 同年6月27日開催された定例の会議(公開)において、上記を決定した。
B これに基づき、東京都教育委員会教育長 比留間英人の名義を以て、
<25教指管第486号>「東京都教育委員会における『平成26年度使用 都立高等高校(都立中等教育学校の後期課程及び 都立特別支援学校の高等部を含む)用教科書につ いての見解(通知)」
を発して、同旨を、都立高等学校等の校長に通知した。

(2) 違法不当な職務行為 

   上記議決・決定・通知の各行為は、東京都教育委員会が、
    @ 学校管理者が行う教科書の選定採択について、自己の有する権勢を利用して違法な介入を行い、不当な圧力を加えるものであり、
   ないしは、
    A 自身の有する教科書採択権を濫用した違法行為であり、
   その職責に反した違法不当な職務行為である。

(3) 東京都の財務上の損害

@ 東京都は、各教育委員に対して、定額の6月分の報酬を支給し、各委員は
これを受領した。
A しかし、このような教育委員としての任務に背いた公務に対する東京都の報酬支出行為及び上記各委員の給与受領行為は、地方公共団体としての東京都の財務を害するものである。

【3 求める措置】

 @ よって、地方自治法242条に基づき、厳重な監査の上、各教育委員に対して、受領した6月分の報酬の内から、6月13・27日分(委員会開催日)に相当する金額を返還させる措置をとられたい。
  A また、教育委員会事務局に対して、上記通知をなすに要した事務費用相当額を東京都に返還させる措置をとられたい。

U 請求の理由

1 事実の経過

@ 東京都教育委員会は、2013年6月13日に定例会議を開催した。その後非公開の懇談会が行われたが、その席上、木村孟委員長において
    「来年度都立高校の日本史の授業に於いて使用する教科書として、実教出版(株)発行の『高校日本史A』『高校日本史B』は適切ではない」
  との内容を骨子とする別紙「通知文」の案文を読上げた上、新任の乙武・山口委員を含む全委員一人一人に対して賛否を問うた。
   結果、全委員がこれに賛成した。
 A これを受けて委員会は、27日公開の定例会議を開催した。ここにおいて
  木村委員長は、「私が、比留間英人教育長に対して、教育委員の意見をふまえた見解をまとめさせ、校長に周知するよう指示した。」として、別紙「通知文」の案文を金子一彦指導部長に読上げさせた。そして、この見解及びその周知が議決された。
B これに基づき、委員会は東京都教育委員会教育長比留間英人の名義を以て、
別紙
   <25教指管第486号>「東京都教育委員会における『平成26年度使用 都立高等高校(都立中等教育学校の後期課程及び 都立特別支援学校の高等部を含む)用教科書につ いての見解(通知)」
を発して、都立高等学校等の校長宛に、「(株)実教出版発行の『高校日本史A』『高校日本史B』は、日の丸掲揚・君が代斉唱に関する東京都教育委員会の考え方と異なっており、不適切である」等を内容とする通知を行った。
C しかも、都教委は更に、「本件教科書が選定されても、教育委員会として不採択にすることもありうる」との見解も明らかにし、不採択についての強い意思を明示した。
D (なお事実の経過としては、すでに昨年、東京都教育委員会は、実教出版の教科書を選定した学校の校長に対して電話等による「指導」を行い、方針変更させるという違法な介入を行っていた。
   今回、そのような事実上の加圧ではなく、議決・通知という、格段に強力な方法が採られ、介入が強められるに至ったのである。
     すなわち、昨年5月頃、都教委高校教育指導課の増渕達夫課長は、全校長が出席する連絡会前に開催された幹事会で、「国旗国歌を『強制』 不適切記述相次ぎパス」などとして、実教出版の教科書を問題視する産経新聞の記事に触れ、「教科書の選定は公平公正にやるように」と発言した。
     その後、同課は『高校日本史A』を現在使用している数十校(職業科・定時制等)の校長に対して、メールや電話で「あの記事のことはご存じですか」などと、暗に圧力をかけた。その結果、校長が独断で選定教科書を変更したり、若手教諭が校長に他社版への変更を迫られたりするなどして、昨年度、実教出版『高校日本史A』教科書の採択はゼロとなっていた。

2 本件議決・通知の問題性 

@ この通知の内容は以下のとおりである。 
ア 教科書の採択権は教育委員会にある。
イ 平成26年度使用高等学校用教科書のうち実教出版(株)の「高校日本史A」  「日本史B」に
「国旗国歌法をめぐっては、日の丸・君が代がアジアの侵略戦争で果たした役割とともに、思想・信条の自由、とりわけ内心の自由をどう保障するかが議論となった。政府は、この法律によって国民に国旗掲揚、国歌斉唱などを強制するものではないことを国会審議で明らかにした。しかし一部の自治体で公務員への強制の動きがある。」
   という記載がある。
ウ  平成24年1月16日の最高裁判決で、国歌斉唱時の起立斉唱を教員に求めた校長の職務命令が合憲であると認められた。
これに踏まえ、都教育委員会は、平成24年1月24日の臨時会に於いて
入学式、卒業式等に於ける国旗掲揚及び国歌斉唱について」を、委員総意のもと議決した。
エ  上記教科書の記述のうち、「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」
は、「入学式、卒業式等においては、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導することが、指導要領に示されており、このことを適正に実施することは、児童・生徒の模範となるべき教員の責務である。」とする都教育委員会の考え方と異なるものである。
オ  都教育委員会は、今後とも、学習指導要領に基づき、各学校の入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱が適正に実施されるよう、万全を期してゆく。
  カ  こうした中にあっては、上記教科書を都立高等学校等において使用することは適切ではない。
キ  都教育委員会は、この見解を都立高等学校長等に十分周知してゆく。

A また、前記のとおり、各学校に於いてこの通知に反する教科書選定が行われても、都教委はこれを認めないとの立場が明らかにされている。

 B しかし、ここには大きな問題が存している。  
ア まず、教育現場で使用される教科書の採択権がどこにあるのかの問題である。今次議決・通知は単純に「教育委員会にある」として立論しているが、
後述のとおり、決してそうではない。
 都立高等学校における使用教科書の採択権は、各学校の現場、制度的には学校管理者である各学校長にあるというべきである。
イ この場合に、教育委員会が学校現場に対して、文科省の検定にも合格している特定の教科書について、教育委員会の権威を背景に、「その使用は不適切なので選定すべきではない」などとの見解を決定し、これを表明し、更に公的に通知することの適法性・妥当性である。
   これは、上記の現場の教科書採択権の不当な侵害であり、教育現場への不当な介入と目さるべきものである。
  ウ 上記のとおりなのであるが、仮に採択権は教育委員会にあるとの見解を前提としたとしても、本件決定・通知は、以下の点で違法な教育行政である。
   a 教育委員会は、憲法23条・26条1項・教育基本法・学校教育法等に基づき、適正な教育行政を行わねばならない責務を負っているが、これに違背している。
b また、独占禁止法によって禁止されている、いわゆる優勢的地位を濫用した不適正な取引行為というべきである。
c 更に、この違法行政によって、後記のとおり実教出版(株)に対して違法に損害を与えた不法行為である。
エ なお、そもそも「実教出版(株)の2点の教科書の使用は適切ではない」となしたその理由に、何ら合理的根拠がない。これは、採択権の所在について、上記のいずれの立場に立ったとしても、教育委員会の本件行為の違法不当性の根拠となるものである。
  a すなわち、本件決定・通知、及びそこで言及されている2012・1・24都教委見解はいずれも、2012・1・16の最高裁判決(平成23年(行コ)第151号を援用し、「国歌斉唱時の起立斉唱等を教員に求めた校長の職務命令が合憲と認められた」ことを強調している。
b しかし、この援用は、判決の趣旨に明らかに反するものである。
     すなわち、この判決は、その限りではそのとおりである。つまり、「起立斉唱せよ」との教師に対する校長の職務命令が憲法違反ではないとなされ、その違反行為に対する懲戒処分が合憲となした。
c ところで、「違反すれば懲戒処分に付されるという職務命令を以て、君が代斉唱時に起立し、斉唱することが指示される」ということは、一箇の強制であることが誰の目にも明らかである。都教委の援用する最高裁判決は、そのこと自体は合憲であるとしつつ、それに対する違反行為についての懲戒処分の内容の範囲に、一定の制限を付したものである。
すなわち、東京都教育委員会が強調し、援用する最高裁判決は、「君が代斉唱時の起立斉唱を校長が教員に、一定の不利益を示して要求し、違反行為に対して相当範囲の懲戒処分をなすこと、つまり一定の強制をなすことそれ自体は憲法違反ではない」と言っているものであるのである。最高裁は「強制」性を認めた上で判決しているのであって、「君が代斉唱時に起立斉唱を求める校長の職務命令は強制ではない」などとは一言も言っていないのでる。
  d そもそも、都教委は学校現場における日の丸掲揚・国歌斉唱に関して、その強制性については明言することを回避しつつも、しかし現場管理者に対しては職務命令を以て実施するよう強力に指導し、命令不服従者には懲戒処分を科してきた。すなわち現実には「強制」してきたのである
    にもかかわらず今回、「一部の自治体・・・強制の動き」との教科書記述を問題にし、この教科書を不適切となしたことは、直接には生徒たちに対して強制の事実を隠蔽すると共に、教員に対しては、生徒指導に名を藉りて日の丸掲揚・君が代斉唱について強制を行うという、欺瞞的統制手法を維持するために、敢えて行われたものである。そしてその際に、最高裁判決の趣旨をも殊更に歪曲し、恣意的な援用までもが行われているのであって、従前からの「強制性」についての自己矛盾が、改めて露呈されているものである。
    都教委は、処分に対する合憲判決に乗じて、それを殊更に誤用をしてまでも、自身の政策をごり押ししているとの譏りを免れない。
e これらに徴すれば、「一部の自治体で公務員に対する強制の動きがある」という本件教科書の記載それ自体は、客観的事実のみが端的に記述されている以上のものではないことが明白である。
   f 実は文科省も、本件が問題になった以降に、この問題について、「権限のある者が職務命令をもって命ずるということを『強制』と表現することは、誤りと言えない」と指摘して、「この記述は正しい」との見解を明らかにしている。当然のことが表明されたのであるが、これによっても都教委の見解の誤謬性が明白である。
  g しかるに、都教委は「教育委員会の考え方と異なる」などとして、実教出版(株)の教科書を非難しているのであるが、都教委は誤った見解によって、理不尽にこの教科書を誹謗しているものである。
h なお、都教委の誤謬は以上のとおりなのであるが、教科書である以上、
教育現場での実用性が極めて重用であることは当然であるが、実教出版の
教科書は、現場の教師からは、
 「1. 近現代史が丁寧に取上げられている。
  2. 見開き2頁が1箇のテーマになっている。
  3. 全てのテーマが設問形式になっている。
  4. 一般的な高校の授業のスタイル・形式に合っている。」
等、「授業がやりやすい」として高い評価が寄せられている現実が存する。 都教委は、このような点は全く評価せず、「考え方が異なる」などとして、「不適切」視を一方的に押しつけて、「使わせない」としているのであって、あってはならない甚だしい教育現場の無視である。 

3 本件議決・通知の違法不当性 

以上をふまえて、都教育委員による本件議決・通知の違法性について論ずる。

(1) 都立高等学校に於ける使用教科書採択について

@ 公立学校については戦後は、戦前戦中の教育の国家統制の中心的柱であった国定教科書制度が廃止されたことにより、使用教科書については、文部省の検定に合格した複数の教科書のうちから現場が採択すべきものとの解釈運用がなされていた。
A しかし、1962年に義務教育機関に於ける教科書の無償制度が設けられると共に、都道府県教育委員会が「市若しくは郡の区域、又はこれら区域を併せた地域に、教科用図書採択地区を設定しなければならない」(教科書無償措置法12条)ものとされた。
B 以降、本条項や地方教育行政法23条6号及び「教科書の発行に関する臨時措置法7条1項等により、採択権が都道府県教育委員会に属するものとの解釈運用が行われてきている。
C しかし、公立高等学校については、教科書は無償ではないので教科書無償措置法の適用はなく、他に格別の法規定は存在していないゆえに、解釈運用の変化はないものとされてきた。
すなわち、公立高校の教科書については、従前どおり、各学校現場に採択権があると解釈運用さるべきである。
D そもそも、教科書の採択は、各学校の教育課程編成および教員の教育内容
編成に深く関わる高度の教育専門的事項であり、日常的に生徒の学力などの実情を把握している教育現場の意向が、最大限尊重さるべきものである。
 このことは、日本政府も賛成して採択されたILO・ユネスコの「教員の地位に関する勧告」(1966年)に於いても、次のように宣明されている。
  「第61項  教員は生徒に最も適した教材および方法を判断するための格別の資格を与えられるものであるから、・・・教材の選択と採用、教科書の選択、教育方法の適用などについて、
不可欠の役割を与えられるべきである。」
また、最高裁も、次のように宣明している。
「一般に教育関係法令の解釈及び運用については、法律自体に別段の規定がない限り、できるだけ教育基本法の規定および同法の趣旨目的に沿うように考慮が払われなければならないというべきである。」
(1976年5月21日「旭川学力テスト事件」判決)
E にもかかわらず、教育委員会は、「地方教育行政の組織および運営に関する法律」23条6項などを援用して、公立高等学校の教科書採択権も教育委員会にあるとの見解を採ってきたようであるが、しかし、同法条は、教育委員会は「教科書その他の教材の取扱に関する」「事務」を「管理」「執行する」として、一般的事務の管理について定めているにすぎず、教科書の内容にまで踏み込んで学校現場を管理しうるというものでは全くない。
東京都教育委員会の見解は、上記「エ・オ」からして誤ったものである。
  (なお、そのようにしつつも従前、実際には、現実に各学校現場の選定がそのまま追認されてきていた。
しかるに、東京都教育委員会の今回の仕儀は、「教委の採択権」なるものを振りかざしつつ、教育現場への違法な権力的介入が開始されたものと言わねばならない。)
F 今回の本件決議・通知は、明らかにこれまでの解釈運用を、教育委員会の権威を以て一方的に改変しようとしているものである。
G また、そもそも教育委員会が本件の如き規制を行うことは、以下に述べるとおり、言うなれば、権限を濫用した恣意的「二重の検定」ともなすべきものであり違法である。
ア そもそも文科省による教科書検定は、「家永教科書裁判」で明らかになったように、検定官(国)の恣意的政治的介入が疑われ、憲法21条の禁ずる「検閲」ではないかとの批判も強い。
  近時の問題事例としては、第一次安倍内閣の登場を機に行われた「沖縄の集団自決(強制集団死)」に関する歪曲検定問題が存する。文科省が、「日本軍に強制された集団死」という趣旨の記述を削除させた事に対して、沖縄において、「島ぐるみ」と言われた全県的批判が湧き起こり、11万人もの人達が参加した県民集会を始めとする強い抗議の結果、当該記述の再修正を文科省も承認したという経過が存する。
  これは一例であるが、文科省は常にこうした介入を行ってきた。
イ しかし、今回の実教出版の教科書については、そのような文科省の検定にも合格しているのである、そして前述のとおり文科相自身が、「本件記述に間違いはない」旨を述べているのである。
 したがって、この教科書については、全国のどこの学校が使用しても適切であると、文科省も認定しているものである。ゆえに、この教科書が教育現場で使用するのが適切であると教師が認めるならば、これを自由に選んで使用する権利があるはずのものである。
 すなわち、文科省自身次のように述べている。
 「検定 3.教科書検定の趣旨 1.教科書検定の意義」
「我が国では、学校教育法により、小・中・高等学校等の教科書について教科書検定制度が採用されています。教科書の検定とは、民間で著作・編集された図書について、文部科学大臣が教科書として適切か否かを審査し、これに合格したものを教科書として使用することを認めることです。
・・・教科書検定制度は、教科書の著作・編集を民間に委ねることにより、著作者の創意工夫に期待するとともに、検定を行うことにより、適切な教科書を確保することをねらいとして設けられているものです。」
   このように、文科省の「教科書検定制度」により、「文部科学大臣が教科書として適切か否かを審査し、これに合格したもの」は「適切な」「教科書として使用することを認め」られているのであるから、教員(学校)は、種々の検定済教科書のうちから、自由に、その学校の特色・生徒の実態に合わせて選定する権利があるのである。
 したがって、各地方教育委員会が、文科省が「適切な教科書」として合格させた検定済教科書について、特定の教科書を挙げて「教科書として適切でない」と二重検定し、教員(学校)が検定済教科書のうちから、教科書を自由に選定することを禁止することは、どの法規にもない違法行為である。
 このような教育委員会の規制は違法な「二重の検定」であって、教育委員会の権限濫用というべく、許されない。
  ウ 都教委による二重検定は学校教育法違反である。
学校教育法第34条、第49条、第62条は、小学校・中学校・高等学校においては「文部科学大臣の検定を経た教科用図書又は文部科学省が著作の名義を有する教科用図書を使用しなければならない。」としている。すなわち、「教科用図書」の検定は、文部科学省(大臣)のみに与えられた権限であり、この法規は反対解釈として、権限を持つ「文部科学大臣の検定を経た教科用図書」は、学校(教員)が、自由に選定し、使用することができるものであることを意味する。
したがって、地方教育委員会である都教委が「文部科学大臣の検定を経た教科用図書」のうち、特定の「文部科学大臣の検定を経た教科用図書」を挙げて、学校(教員)の自由な選定・使用を禁止することは、権限無き二重検定であり、違法である。
(以下 余白)

(2) 本件教育行政行為の違法不当性
     (その1 憲法23条・26条1項・教育基本法・学校教育法 違反)

都教委の今回の議決・通知は、使用教科書採択権の主体についての考え方如何にかかわらず、関係法規に違反する違法な教育行政である。
  (<採択権は学校現場にある>との立場に立った場合、
      それは、各学校現場・学校長の教科書採択権に対する権力的介入・不当な加圧行為である。
   <採択権は教育委員会にある>との立場に立った場合、
      それは、採択権の違法行使である。)
              (・・・・以下、(3)・(4)に於いても同じ)

@ 憲法23条違反

  ア この教科書の代表執筆者である加藤公明氏(元千葉県立高等学校教諭)は、今回の問題について、次のように述べている。
    「三十数年高校で日本史を教え、現場教師の要望や問題意識を活かす教科書づくりをしてきた。実教出版は、歴史学の最新の成果に基づき、人々が人権や民主主義生活を守ろうと、時の権力と闘ってきた民衆史を重視している。それを生徒が読みとれるように改善を重ねてきた。」
また本件9月18日付で、執筆者一同としての見解が明らかにされた。そこでは、
      「厳密に歴史研究の成果に基づき、歴史的事実をもとに、学校現場での主要な教材である教科書の重要性を認識して記述した。」
「高校生が歴史を主体的に思考し、主権者として成長できることを願って記述してきた。」
と述べられている。
イ ここには、長年歴史学・歴史教育に携わって来ている歴史学徒の、歴史学に対する謙虚な姿勢と、次代を託すべき高校生に対する期待と愛情に充ちた姿勢が見られる。
ウ そのような執筆者にとっては、本件教科書の作成・本件記述は、生徒たちに真実を明らかにし、厳密な記述を行うことは、歴史学徒としての良心と強い責任感に基づくものである。
エ しかるに今般、東京都教育委員会が「本件教科書は適切ではない」などとの公開議決・全校長への通知を行って、この教科書の採用・使用を妨害した行為は、本件教科書・記述に対する全く根拠の無い不当極まる誹謗中傷であって、記述執筆者達のそのような学問的良心と責任感を愚弄するものであり、歴史的事実の厳密な記述に対して権力的圧力を加えているものである。
オ したがって、都教委による本件議決・通知行為は、憲法23条の宣明する学問の自由を侵害しているものであり、許されない。

  A 憲法26条違反

ア 憲法26条の意義
 憲法26条1項は、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と規定し、同2項は、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、これを無償とする」と規定する。
 その「教育を受ける権利」の内容である「教育」とはどのようなものか。日本国憲法は、主権者である国民が、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意」して「確定」した(前文)。その「決意」を実現するためには、過去に政府がどのようにして戦争の惨禍を引き起こしたのかの真実を明らかにすること、そして、その反省の上に、国民を政府の「国策」の犠牲にするのではなく、「個人の尊重」(13条)を基本とした教育であることが必要である。また、そのような「教育」を施すことは、「教育を受ける権利」に対応する教育者の権利であるとともに義務でもある。
こうして、歴史的に戦後の教育は、「戦前のわが国の教育が、国家による強い支配の下で形式的、画一的に流れ、時に軍国主義的又は極端な国家主義的傾向を帯びる面があったこと」(前掲最判1976年5月21日、「旭川学テ」事件判決)の反省から出発したし、憲法はそのような反省の上に立った教育を受ける権利を保障したのである。

イ 教育の重要性
 幣原喜重郎国務相は、1946年9月、吉田茂首相の代理として教育刷新委員会での審議開始にあたって、次のとおり述べた。
「今回の敗戦を招いた原因は、煎じつめますならば、要するに教育の誤りによるものと申さなければなりませぬ。従来の形式的な教育、帝国主義、極端な愛国主義の形式というものは、将来の日本を負担する若い人、これを養成する所似ではありませぬ…我々は過去の誤った観念を一擲し、真理と人格と平和とを尊重すべき教育を、教育本来の面目を、発揮しなければならぬと考えます。」

ウ また、文部省の「教育基本法の解説」(1947年)でも、戦前の教育の行政制度について、
  「この制度の精神及びこの制度は、教育行政が教育内容の面にまで 立ち入った干渉をなすことを可能にし、遂には時代の政治力に服し て、極端な国家主義的又は軍事的イデオロギーによる教育・思想・ 学問の統制さえ容易に行なわれるに至らしめた制度であった」
と指摘したうえで、
   「このような教育行政が行われるところに、はつらつたる生命をもつ、自由自主的な教育が生まれる事はきわめて困難であった。」
 と結んでいる。

エ 上記のように、教育行政が教育内容に干渉したことが帝国主義、極端な愛国主義に基づいた教育を可能にして、戦争の大きな一因になったことを政府自身が認めていた。これは、歴史的事実だからである。

オ 本件へのあてはめ
 東京都教育委員会は、国旗掲揚・国歌斉唱について、「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」という記述は、「『入学式、卒業式等においては、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導することが、指導要領に示されており、このことを適正に実施することは、児童・生徒の模範となるべき教員の責務である。』とする都教育委員会の考え方と異なるものである。」という理由で、その教科書を「適切でない」という見解を示した。
 しかし、「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」ということは、動かしがたい事実である。そもそも都教委自身が、それに対する違反に対しては懲戒処分が加えられるところの職務命令を以て、国旗掲揚・国歌斉唱を行わせるよう学校管理者を指導してきている。そうであるにもかかわらず、この記述が、どうして「都教育委員会の考え方と異なる」のか、全く不可解である。
そこで、その理由は推測するほかないが、恐らくは、「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」という真実を生徒に知らせることが、国旗掲揚、国歌斉唱を教員に指導させようとする教育委員会にとっての障碍となり、委員会の考え方と異なるとするものなのだろう。しかし、それが教育委員会の考え方に反するとしても、真実を記載した教科書
(文科省の検定に合格し、更にその記述の正しさが認められている)を、単に教育委員会の見解に反するというだけで排除して、その見解に反しないと考える教科書の選択を強制することは、教育の専門性を無視するばかりか、真実を隠蔽しようとする恣意的な教育委員会の価値観・政策の押しつけである。
それは、憲法が否定した戦前の誤りを繰り返すことになる。それ自体、憲法に違反し、教育を受ける国民の権利、教育を行う教育者の権利を侵害するものだと言わなければならない。

  B 教育基本法1条違反

 ア 教育の目的は、
  「人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。」(教育基本法1条)
とされている。
イ しかるに、教育委員会の見解に反するという内容の教科書を、単に教育委員会の見解に反するというだけで排除して、教育委員会の見解に反しない内容の教科書だけを教科書として選択を強制することは、社会の形成者として必要な資質を備えることに反する。
  特定の思想しか身につかず、社会の形成者として必要な資質を備えることができないからである。
C 教育基本法2条違反
ア 教育は、
   「幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと。」
                        (教育基本法2条1号)
   「個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと。」(同条2号)
 を目標として行われている。
イ しかるに、教育委員会の見解に反する内容の教科書を、単に教育委員会の見解に反するというだけで排除して、教育委員会の見解に反しない内容の教科書だけを教科書として選択を強制することは、「幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養」うことに反する。
  特定の思想しか身につかず、幅広い知識と教養を身に付けられないからである。
ウ また、「個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養う」ことにも反する。
  特定の思想の押付けは、個人の価値を尊重の対極に位置づけられるばかりでなく、そこには創造性もなければ自主及び自律の精神もないからである。

D 教育基本法16条違反
ア 教育行政は、
   「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない。」(教育基本法16条1項)
 とされている。
 教育委員会の見解に反するという内容の教科書を、単に教育委員会の見解に反するというだけで排除して、教育委員会の見解に反しないという内容の教科書だけを教科書として選択を強制することは、究極なまでの教育委員会による教育の支配であり、教育が「不当な支配に服すること」に他ならない。
E 学校教育法違反
これについては、本件の二重検定性の箇所で前述したとおりである。
(3) 本件教育行政行為の違法不当性(その2 独占禁止法違反)
    都教委の今回の行為は、独占禁止法に牴触する。
3 本件教育行政行為の違法不当性

   都教委の今回の行為は、独占禁止法2条9号に違反する。

 @ 国定教科書制度の廃止は、無用で有害であった国家的統制を廃止し、一定の検定のもと作成出版を自由とした上で、公正で自由な選択によって教科書が採択され、それによって、憲法・23条・26条・教育基本法の精神に則った、現場での実践にふまえた、また、学問的・教育学的に高い水準の教科書が教育現場で使用されることを目指している。
A ところで、教科書の自由競争は、上記趣旨からしてそれ自体は望ましいものであるが、しかしかつて、勢いの赴くところ販売の過当競争として現象したことがあった。
   そこで、御庁はその弊害に鑑み、教科書の採択・・・各学校と教科書出版社の取引・・・について特別に、独占禁止法2条9項6号(当時は7項)による指定(いわゆる「教科書特殊指定」)を行った。
   昭和31年12月20日告示第5号がそれである。
B そこでは、
    (1) 教科書の発行・販売を業とする者が、直接・間接を問わず
教科書を使用する者、又は教科書の採択に関与する者に対し、
      使用・選択を勧誘する手段として、金銭・物品・供応その他これに類経済的利益を供与し、またはこれを申出ること
(3) 教科書発行を業とする者が直接・間接を問わず
      他の教科書の発行を業とする者又はその教科書を中傷・誹謗し、又は
その他不正な手段を以て、他の者の発行する教科書の使用または選択を妨害すること
が禁止された。
ここに規定された諸行為が、教科書の自由作成・発行制の理想、趣旨に反するものであることは一目瞭然であって、まことに時宜・趣旨の適正を得た措置であった。
C 東京都教育委員会による今回の措置は、その行為主体にからして、直接にこれに該当牴触する類型ではないが、しかし、この第3項が定めるところの行為類型、すなわち「教科書の誹謗・中傷」「教科書の使用・選択に対する妨害」に当たることが明らかである。
D この「教科書特殊指定」に明白なように、教科書の選定・採択等に於いては、教育制度の理想からして、完全な自由かつ公正な取引が実現されなければならないのであるから、独占禁止法が厳格に適用され、その趣旨が実現されなければならない。
 (なお、この指定は2006年に、各界からの強い反対の声にもかかわらず廃止された。しかし、その際、「この特殊指定のその趣旨は、一般指定各号になお生きているから、従前同様に規制される」旨の説明が、御庁からもなされている。)
 E 都教委による本件行為は、厳密な意味ではかつての「教科書特殊指定」には該当しないかも知れないが、しかし、その実体に於いては、以下のとおり、教科書に関する自由で公正な取引を害し、教科書の自由制作発行制の趣旨をないがしろしするものであって、独占禁止法に違反していることが明らかである。
 F すなわち、都教委の今回の行為は、以下に述べるとおり、同法2条9項にいわゆる「不公正な取引方法」に該当する違法なものである。
@ 同条項第6号は、「次のいずれかに該当する行為であって、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの」を不公正な取引方法として違法とし、排除の対象としている。
A 御庁は、「不公正な取引方法」として全業種について、16の類型を定めて告示している(昭和57年6月18日 告示第15号・改正平成21年
10月28日 告示第18号)。
     これらのうち、本件に関係があるのは、以下の諸号である。
(2) その他の取引拒絶
(4) 取引条件等の差別取扱い
       (12) 拘束条件付取引
       (14) 競争者に対する取引妨害
   B (2)号について  
第2号は、「不当に、ある事業者に対し取引を拒絶(する)・・こと」を禁じている。
本件は、東京都が合理性のない不当な理由を以て、不当に実教出版(株)との取引を拒絶したものである。
C (4)号について
第4号は、「不当に、ある事業者に対し取引の条件又は実施について、有利な又は不利な取扱いをすること」を禁じている。
本件は、本件教科書に「一部の自治体に公務員に対する強制の動きがある」との記載(それ自体全く正確で正当な記載である)があることを以て、都立高校等に於いて使用する教科書として「不適切である」として、「採択しない」との意向を公然と示し、また高校現場に対して「選定するな」との加圧行為を行ったものであって、「不当に不利な扱いをする」に該当する。
D (12)号について
第13号は、「相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること」を禁ずる。
本件にあっては、都教委と実教出(株)との間では、具体的な取引の段階には未だ入っていないかも知れないが、教育現場での選定段階には入っているのであって、教科書採択制度の実質に鑑みると、独禁法の趣旨からするならば、すでに両者の取引行為は開始されていると解釈さるべきである。
 しかして、本件にあっては、「一部の自治体にあっては・・・・」という、それ自体正確正当である記述が維持される場合は、都教委は「絶対に取引しない」との条件をつけているのである。
 教科書発行会社にとっては採択されない教科書を作成しても事業上無意味であり、経営圧迫の原因となるのみであるであるから、教科書発刊事業維持の為には、記述の内容をその意に反して変更せざるを得ないことにもなる可能性が高い。これは、自由に教科書を作成するという実教出版(株)の事業活動に対する不当な拘束である。
E (14)号について
(a) 第14号は、「自己・・・・と国内に於いて競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他いかなる方法をもってするかを問わず、その取引を妨害すること」を禁じている。
これは直接的には、教科書の場合、各出版業者間での競争の公正性の維持を命じたものであって、各業者の取引の相手方である教育委員会を規制したものではない。
(b) しかし以下に述べるとおり、本件の場合、教育委員会は本号の規範を犯したものとなすべきである。
(c) 前述の教科書特殊指定の実質は、その廃止後も一般指定に生きていることは、御庁・文科省の認めているところである(例えば、「18文科初第952号」他)。
      そこでは、「他の教科書に対する中傷・誹謗」が禁止されていた。
(d) 今般の都教委の見解は、何ら合理的根拠が無く誤っていることは、先に縷説してきたところである。したがって、この見解の決定・公表は、
明らかに、都教委自身による実況出版社の本件教科書に対する「中傷・誹謗」に該当するものである。
  (e) したがって、都教委の本件行為は、特定の教科書に対する中傷・誹謗
をなすことにより、教科書をめぐる取引関係に不公正なアンバランスを招来したものである。
 このような事態は、通常は同業者間における特定の業者によって行われることが多いので、本号が設けられたのであるが、しかし、本件のように、圧倒的優位にあり取引の独占的地位にある相手方が行う「中傷・誹謗」の取引社会に及ぼす効果・悪影響の大きさは、特定の同業者によるそれの比では到底ないことは、改めて言うまでもない。
 本条項の規定方式は、まさか、行政機関にあって、とりわけて最も公正であるべき教育委員会が、このような不当な介入を行うことがあるということを前提にすることが出来なかったがゆえに、このような形式になったものというべく、実際に教育委員会がここまであからさまな、市場への強力な不当介入がなされた場合には、その趣旨からして規制の対象となるとされなければならない。
(f) したがって、公正な取引秩序の維持という本来の趣旨からすれば、教育委員会が本号の直接の名宛人ではないということは、本号準用の妨げには何らならないというべきである。
そもそも、本号は一般指定として、普遍的適用が当初から予定されているものであるという点も、この準用を根拠づけるものである。

4 結 語
以上、東京都教育委員会の本件決定・通知行為は、独占禁止法2条9項に違反する違法不公正なものであるから、厳正な審査の上、本件請求にかかる措置を早急に講じられたく、申告に及ぶものである。

 (4) 本件教育行政行為の違法不当性(その3 実教出版社に対する不法行為)

@ 名誉毀損

ア 東京都教育委員会による本件議決・通知行為は、「委員会が、適正かつ公正に、各学校において最も有益かつ適切な教科書を採択する機関である」と示しながら、実教出版株式会社の平成26年度「高校日本史A」「高校日本史B」は、かかる適正かつ公正な見地からみて都立高等学校等で使用するのは不適切と結論付けている。(この見解の誤謬性は前記のとおりである。)
また、都教育委員会が同見解を都立高等学校等に十分周知するとの記載からは、都教育委員会は本件教科書を都立高等学校において一切使用させない意向であることが、明確に読み取れる。
イ このような発表を読めば、一般通常人は、「本件教科書が、都立高等学校等で一切使用させてはならないほどに、教科書として不適切なもの」との印象を受けることは明らかである。
ウ そして、本件教科書は、あくまでも教科書として出版されたのであるから、一般書として流通可能だとしても、教科書として不適切とのレッテルを張られてしまえば書籍としての価値が著しく低下するのは言うまでもない。
  エ 以上からすれば、出版元である同社の出版社としての評価も著しく低下することは明らかである。
オ したがって、都教育委員会の上記見解発表は、同社の社会的評価を著しく低下させるものであり、名誉毀損行為に他ならない。
カ なお念のために再説すると、都教育委員会が問題としている本件教科書の「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」の記述(以下、「本件記述」という。)について、文部科学省は、校長の職務命令をもって国旗掲揚・国歌斉唱を教員に求めている学校があることは事実であり、「職務命令であれば、強制力をもって指導することになる。『強制』の記述は誤りとは言えない」と指摘している。
そうだとすれば、本件記述は、国旗掲揚・国歌斉唱についての自治体での取扱いを客観的立場から表現しているに過ぎず、「不適切」な教科書などと言われる所以は微塵もない。
したがって、都教育委員会の上記見解は、事実として乃至論評として真実ではなく、正当化の余地はない。
キ なお、都教育委員会の本件見解を受けて、他県の教育委員会にあっても、同様の決定がなされ、各学校長に通知され、加圧的状況が続いている(その結果、例えば神奈川県では、28もの高等学校で実教出版社の本件教科書採択の方針が覆されてしまった。)
これはまるで風評被害による不買運動と同様であり、同社が被る経済的損失は甚大なものである。
都教育委員会は、かかる同社の受ける損害を認識しつつ、上記見解を決定発表したことに疑いはない。
ク 以上から、都教育委員会の上記見解発表は、名誉毀損行為として不法行為に当たる。

A 信用毀損

ア 上述のとおり、都教育委員会の上記見解は、客観的事実に反するもので あり、同見解発表により、同社は多大な経済的損失を被った。
  とすれば、上記見解公表は、「虚偽の風説を流布」して「人の信用を毀損」したものであり、刑法上の信用毀損行為にも該当する(刑法233条)。
したがって、都教育委員会の上記見解発表は、信用毀損行為として不法行為にあたる。

  B 各都立高校長及び教員に対する業務妨害行為

ア 教育委員会の権限の範囲とその限界
本件行為の憲法26条1項を根本とする教育法違反性については、前記したところであるが、本項の論述上も極めて重要な点であるので、念のために敢えて再説する。
a 教育委員会とは、都道府県及び市町村等に置かれる合議制の執行機関であり、学校その他の教育機関を管理し、学校の組織編制、教育課程、教科書その他の教材の取扱及び教育職員の身分取扱に関する事務を行い、並びに社会教育その他教育、学術及び文化に関する事務を管理し及びこれを執行する権限を有する(地方自治法180条の8)。
このように、教育委員会は各学校に対して、強く広範な権限を有する。
b 他方、各学校・各教師は、児童・生徒の学習権に奉仕するものとしての教育権乃至教育の自由を有する(憲法26条1項)。この点については、最高裁の昭和51年5月21日判決が、極めて示唆的である。
c この判例に於いて最高裁は以下のように宣明した。
     「国は、子ども自身の利益の擁護のため、あるいは子どもの成長に対する社会公共の利益と関心に応えるため、必要かつ相当と認められる範囲において、教育内容についてもこれを決定する権能を有する」
    そこで、人間の内面的価値に関する文化的営みである教育に党派的な政治的影響が深く入り込む危険があることを考慮し、
     「教育内容に対する右のごとき国家的介入についてはできるだけ抑制的であることが要請され」
     「子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入、例えば、誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるようなことは、憲法26条、13条の規定上からも許されない」
   との判断が示されている。
d 今次の教育委員会の措置は、権限行使について「抑制的」であるどころか、
逆に、誤った見解に基づいて、特定の教科書を誹謗したうえで、「採択しない」との見解を一方的に学校現場に下達したものであって、むしろ「党派的な政治的影響」の意図さえ感じさせるものである。
e これは、上記判例に明らかにされた憲法26条1項の趣旨に悖るものであって、同条項に違反することが明らかである。

  イ 学校教育法違反
 a 高等学校の教育は、
    「義務教育として行われる普通教育の成果を更に発展拡充させて、豊かな人間性、創造性及び健やかな身体を養い、国家及び社会の形成者として必要な資質を養うこと。」(学校教育法51条1号)
    「社会において果たさなければならない使命の自覚に基づき、個性に応じて将来の進路を決定させ、一般的な教養を高め、専門的な知識、技術及び技能を習得させること。」(同2号)
    「個性の確立に努めるとともに、社会について、広く深い理解と健全な批判力を養い、社会の発展に寄与する態度を養うこと。」(同3号)
  を目標として行われている。
 b 教育委員会の見解に反するという内容の教科書を、単に「教育委員会の見解に反する」というだけで排除して、教育委員会の見解に反しないという内容の教科書だけを教科書として選択を強制することは、まず「豊かな人間性、創造性及び健やかな身体を養い、国家及び社会の形成者として必要な必要な資質を養うこと」に反する。特定の価値観しか教えないのでは、生徒が豊かな人間性、創造性を形成できないばかりでなく、多様な価値観を身につけることができず、国家及び社会の形成者として必要な必要な資質を養えないからである。
 c 次に、「個性に応じて将来の進路を決定させ、一般的な教養を高め」ることにも反する。特定の価値観しか教えないのでは、生徒の個性に応じた教育にならないばかりでなく、一般的な教養を高める事ができないからである。
 d また、「広く深い理解と健全な批判力を養い、社会の発展に寄与する態度を養うこと」にも反する。賛成意見と反対意見の双方が示され、生徒が体的自主的検討作業を行ってこそ、広く深い理解と健全な批判力を養えるのにもかかわらず、特定の価値観しか教えないのでは、広く深い理解と健全な批判力はもとより、社会の発展に寄与する態度も身につかないからである。
e 教育委員会は、国の機関ではないものの、都道府県及び市町村等に置かれる合議制の執行機関であるから、上記判例における国に対する判断をパラレルに適用して考慮すべきである。
したがって、教育委員会は、各学校に対し上記のような広範な権限を有していながらも、その行使については、子ども自身の利益の擁護のため、あるいは子どもの成長に対する社会公共の利益と関心にこたえるため、必要かつ相当と認められる範囲において認められ、子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような介入は許されないのである。

ウ 都教育委員会の本件見解は、各学校・各教師に対する業務妨害行為である
a 本件教科書が文部科学省による教科書検定に合格し、従来より各学校において一定程度の採用実績があったことからすれば、子どもの教育にとって有益な教科書であることは明らかである(前記のとおり、特に、その教育実践上の価値について、現場の教師の評価が高いとされている)。
b そうであれば、各学校・各教師が有する、子どもの学習権に奉仕するためのものとしての教育権乃至教育の自由の正当な行使として、本件教科書を自校の教科書として採用することは尊重されなければならない。
c にもかかわらず、都教育委員会は、上述のとおり、本件教科書が「不適切」という、何ら根拠がなく正当化の余地のない本件見解を発表した。そして、都立高等学校等に、本件教科書を採用してはならない旨を周知した。
上記のとおり、教育委員会は各学校・各教師に対して、強く広範な権限を有することからすれば、通常、各学校・各教師は、教育委員会の命令に逆らうことはできず服従せざるを得ない。すなわち、各学校・各教師の正当な教育権の行使としての判断であっても、教育委員会からそれと異なる命令を出されれば、各学校・各教師は教育委員会の命令に従わざるをえず、自らの教育権が不当に制限されることになるのである。
本件は、まさに、教育委員会の違法不当な命令により、本件教科書を採用するという各学校・各教師の正当な教育権乃至教育の自由が侵害されたということができる。
d そして、かかる教育委員会の命令は、その強く広範な権限・影響力からすれば、人の意思を制圧する程度の社会的地位・権勢・勢威等を利用した威迫に該当する。
刑法上の威力業務妨害行為(刑法234条)の構成要件的実行行為たる「威力」には、社会的地位・権勢・勢威を利用した威迫行為も含まれるところ、本件はまさに、上述のような教育委員会の威迫により、各学校は本件教科書を採用したくてもすることができなくなったのであり、都教育委員会の本件見解発表は、正当な教育権の行使である各学校の業務に対する妨害行為であることは明らかである。 したがって、都教育委員会の上記見解発表は、威力業務妨害行為として不法行為に当たる。

V 結 語

以上、東京都教育委員会の本件議決・通知行為は違法不当なものであるから、厳正な監査の上、本件請求にかかる措置を早急に講じられたく、請求に及ぶものである。 (以 上)