2006年12月18日

陳  述  書

増 田 都 子 

 私は、1973年に東京都の教員となって以来、常に憲法・教育基本法に忠実に、人権教育・民主教育・平和教育を実践してきており、いささかも天に恥ずるところはありません。被告による数年にわたる不当処分弾圧においても、生徒達と私は、生徒達が私に与えてくれた手紙(甲 号証)に見られるように信頼の絆で結ばれており、私の紙上討論による教育実践の正しさには、自信と確信が増すばかりです。それだけに、今回の被告による極度の度し難い、不当な免職処分への怒りは、表現する言葉が見つからないぐらいです。

 この異常な処分は、去年、私が公民の授業において韓国盧武鉉大統領の3・1演説を教材として使ったことに端を発しました。生徒たちは、この授業の中で、大統領の呼びかけに対して真摯に考え、日本の侵略・植民地支配と和解の問題が、今なお完全には解決していないこと、未来の主権者として考え続けていかなければならない問題であることを理解しました。このような授業に対しては褒められこそすれ、なんら譴責を受けるいわれはなく、ましてや『懲戒処分』『授業剥奪』その上の『免職処分』などが、なぜ、ありえるのでしょうか?
 
 しかるに都教委は、私が盧大統領あてとして手紙形式で書いた文章中、04年10月の都議会文教教育委員会で「侵略戦争うんぬんというのは全くあたらない」と発言した自民党・古賀俊昭都議の名を挙げ、「国際的には恥をさらすことでしかない歴史認識」と批判し「新しい歴史教科書をつくる会」主導の扶桑社の教科書を「侵略の正当化教科書として歴史偽造で有名」と指摘したこと、都教委について、扶桑社の教科書を「『愛国心を持たせる一番よい教科書』と公言して恥じない人たち」と書いた文言をとらえて、05年8月30日、都議や扶桑社をひぼうしたとして戒告処分し、同年9月か1日から06年3月31日まで都教職員研修センターでの研修を命じ、『反省・改善がない』と分限免職しました。

 しかし、小泉首相(当時)の本年8・15談話を待つまでもなく「我が国が侵略と植民地支配」を行って「アジア各国に多大な被害を与えた」ことは、我が国政府が内外に表明しているところであって、これを否定しようとする誤った歴史認識に基づく公的発言・教科書を批判するのは、正しい歴史認識を生徒達の身につけさせることを責務とする社会科教員にとっては当然のことです。付言すれば、本年9月に首相に就任した安倍晋三氏も、官房長官時代までは被告や、一都議らと同じ誤った歴史認識の持ち主といわれていましたが、国会において、首相としても個人としても「日本の侵略と植民地支配を歴史事実として認める」と言明せざるを得ませんでした。これは国際的にも常識であり、これを否定することは「国際的に恥を晒すものでしかない」という客観的事実があるからです。

 誤った歴史認識を公言する公人に対する「批判」は民主主義社会にあっては当然といえ、単なる私人に対する誹謗中傷などとは全く違います。これを被告は「誹謗中傷」と主張するのですから、被告自身が、古賀都議や扶桑社歴史教科書と同じ誤った歴史観に立っていることを公言しているわけです。日本政府が言明している「侵略と植民地支配」の過去を認めない、ということは地方行政を担う者として完全な誤りです。このような誤った歴史認識に立つ公人の公的発言及び広く知られている出版社の教科書への批判を教えることは、言論の自由こそは民主主義社会の基本であることを教えることの一環であり、「良識ある公民たるにふさわしい政治的教養」を培うよう教育基本法第八条に要請されている法治国家の公立学校においては、何ら非難される謂われはありません。
また被告は、生徒達が書いた韓国ノ・ムヒョン大統領への手紙を、私が、一括して大統領宛に出したことをもって個人情報漏洩に仕立てあげようともしました。授業内容に対する、このような行政の直接介入は教育基本法十条の明らかな違反であり、教育活動の自由を否定するものです。

 この05年8月30日付「戒告処分」について「違法・不当」と人事委員会に提訴して争っている最中に、被告は、私に「研修」と称して現場外しをしました。被告の誤った歴史認識を是とし、基準として、私がそれを批判したことを非と認めて初めて「研修の成果が上がり改善した」と被告は認めるわけで、もし、私が、そのように被告に屈服すれば、私は「戒告処分、違法・不当」の訴えを取り下げるしかなくなるわけです。被告は卑劣にも、その「研修命令権」を悪用して、被告の主張を私に押しつけるために使い、私の裁決を受ける権利を侵害し、さらには授業で生徒達に正しい歴史認識を育むことを阻止しようと図ったのです。

 この戒告処分でさえ、違法・不当なものであるのに、古賀都議は昨年十月都議会で、わざわざ私を取り上げ「今でも教壇を去るどころか、退散すべき教壇にいまだに立ち続けている。都教委も、この教員に関心を持ち続けてもらいたい」と、政治家として露骨に私を学校現場から排除するよう迫りました。これを受けるように被告は、「戒告」処分に続いて、本年3月末までの都教職員研修センターでの長期研修を強制し、3月31日付けを以て本分限免職をしたのです。これは正に、この処分の本質が、古賀都議と被告、つまり政治家と教育行政が一体となって、教育に対する「不当な支配」(教育基本法第十条が厳に禁ずるもの)を企んだことによるものであることを証明しています。本件処分は、誤った歴史観に立つ被告や古賀都議が一体となって、私が社会科教員として生徒達に正しい歴史認識を育んだことが自分たちの気に入らないために、私を「現場外し=隔離研修」をさせたあげく「免職」したという以外の何者でもなく、被告による処分権、研修権の信じがたいまでの違法な濫用と言うしかありません。私はなんら『研修』を強制されるいわれはなく、しかもその実態たるや、ここで詳しく述べる時間はありませんが、『懲罰』「イヤガラセ」以外の何者でもありませんでした。

 なお本件処分が「ノ・ムヒョン大統領への手紙」を直接の契機とし、生徒達に正しい歴史認識を育んだ教育を実践したことへの弾圧であることは海外でも注目されており、中国では05年9月7日付け人民日報(甲 号証)、韓国ではハンギョレ新聞(甲号 証)をはじめ、05年11月19日午後0:00からは韓国文化放送テレビ局(MBC)により15分程度のドキュメタリーが放映されました(甲 号証)。また本件免職処分処分直後は、韓国KBS,MBC,SBSの全てのテレビ局がニュース放映し(甲 号証)た。ぜひ、これらのビデオを公開の法廷で皆さんに見ていただきたいと思っています。

 また、盧武鉉大統領とも親しい釜山市民団体協議会の金□魯(キム・ヒロ)理事長から講演旅行に招請されて釜山に行きました本年5月13日、盧武鉉大統領の側近の薛東根(ソル・ドンゴン)氏(釜山市教育長に当たる教育監で、大統領諮問教育革新委員会委員長)を通じて、盧武鉉大統領から私に対し以下のようなメッセージが伝えられています。「勇気のある先生に会いたいと思いますけど、今は、国家関係が微妙な時期なので会うことはできませんが、いつか会いましょう。関心を持っていますので頑張ってください」

 韓国国民の方からの私の解雇撤回要求署名も、現在、6558筆寄せられていますが、韓国の方たちからの被告に対する解雇撤回要求文には以下のようにありました。
 「東京都教育委員会は、増田先生を『植民地支配と侵略』を否定するという誤った日本の歴史認識を批判する授業を行ったという理由で解雇しました。私たちは、増田先生の行動は、アジア永遠の平和と正しい歴史教育にとって、正当なことであると評価しています。
ここに私たちは、増田先生の不当解雇撤回と職場復帰を、韓国国民の良心の名の下に要求します。」

 この裁判は、被告だけでなく司法の『歴史認識・法令順守意識を問う』ものでもあり、国際的にも注目されています。もし、この憲法・教育基本法第十条はじめ数々の法令に違反する違法・野蛮な処分が撤回されないとなれば、「日本は『侵略と植民地支配』の歴史を反省しない。だから未来の主権者たる子どもたちにも『侵略と植民地支配』の真実を教えない。教える教師はクビにする」!? と世界に宣言することになるでしょう。

 被告都教委は、本年9月21日「国歌斉唱義務不存在訴訟」判決において、本法廷が、かの「10・23通達は違憲・違法である」と公正なる判断を下されましたのにもかかわらず、司法判断を尊重する態度の一片すらなく、爪の垢ほどの反省も改善もなく、遮二無二、違憲違法な教育行政を推進しています。

 本法廷におかれましては、本件訴訟についても公正な判断をくだされ、このような被告の野蛮極まりない無法な権力行使を『違憲・違法』と認定していただけるものと期待しています。どうぞ、被告・都教委が、その違憲・違法な教育行政を反省して改善しますよう、そうして、私の生徒たちに「正義が勝ちましたよ」と報告できるようにしてください。