9・15ピョンヤン宣言7周年集会、蓮池さん、西野さんの話 09/9/16

 昨日、午後6時半から文京区民センターで行われた「『韓国併合』から100年 真の和解・平和・友好を求める2010年運動」(略称・2010運動)主催の「【9・15ピョンヤン宣言7周年のつどい】蓮池透さんを向かえて  過去の清算と拉致問題の解決を考える――日朝国交正常化早期実現を!――」という長い名前の集会に参加してきました。220名の参加で、たいへん、熱気がありました。

 蓮池透さんのお話も、西野留美子さんのお話も、たいへん、聞き応えがあり、感銘深いものでした。長いのですが、ご紹介します。私のメモ&脳みそ記憶に基づくものですから、完全に正確ではありませんが・・


<9・15ピョンヤン宣言7周年集会>
● 蓮池透さんのお話
 地下鉄春日の駅を出て(※この改札のすぐ上が会場)公安がズラーッと並んでいるので(※私はスタッフの手伝いのために5時半には来ていたのですが、もう、その時は公安がズラーッ!?)、この集会は、そんなに公安がたくさん来なければならないのだろうか? 公安は、もっとやることがあるんじゃないのか? と思いました。(※思わず拍手!)

 さて、拉致問題については安倍首相のときまで北朝鮮には強硬姿勢をとらなければ「弱腰」とか「北の手先」とか言われ、自由な議論ができない世相ができ、危険な感じがしていました。この集会は「日本と北朝鮮について自由に話し合う、という場を設ける」という趣旨ですから、こういう立場を取る主催者には感謝です。
マスコミも強硬姿勢しか報道しません。しかし、制裁は効果があるのでしょうか? 「これだけ制裁したから北は困っている」「中朝国境はシャッター通り状態」とか、北をイジメ、締め上げれば「効いている」というように報道します。「マツタケを、北は中国に輸出し、それを日本は輸入して『マツタケ・ロンダリング』」ということもあるそうですが(笑)・・・

 もし、北が核を手放す、拉致被害者を返す方向になったら初めて制裁の効果があったといえるでしょう。今は、手段だったものが完全に目的化しています。マスコミも、そういう姿勢を改めてほしい。

 核問題はグローバルな世界的な問題ですが、拉致問題は日朝間のみの問題です。政府が「拉致・核・ミサイルを包括的に解決する」というのは、都合のいい逃げ口上です。核問題が解決すれば拉致問題は解決するのでしょうか? この3つはキッチリと分けるべきです。

 ある新聞のアンケートでは強硬派が7〜8割。でも「制裁の効果は?」には「5割が出ない」としています。残りの5割は、ただ「北朝鮮が許せないから厳しく当たれ」の感情論です。安保理決議で経済制裁をしても、それがどういう経緯で核放棄になるのか? 安保理決議の経済制裁で被害者は帰ってきましたか? 制裁は戦略を立てた上でのことでしょうか? 制裁は戦争と平和的解決の中間にあります。私は、制裁もお願いしてきましたが、それはあくまでも一つの手段だと思ったからです。

 北の第1回の核実験の後、包括的制裁として、あとづけで「拉致も入れとけ」ではなかったでしょうか? こういうのは果たして戦略的でしょうか? 単純に「憎たらしい」という感情に押され、「制裁すれば良い」というようなのは残念です。どういうシナリオで、被害者を取り返すのか? まるで無いです。「家族が『制裁しろ』というから、やっている」「家族会はそれで満足するだろう」という政府のエクスキューズでしかありません。

 国内向けパフォーマンスとして、拉致問題のCM,DVD,本、漫画、ネット配信、これが全て・・・国民を啓発・啓蒙するという・・・拉致問題対策本部がそればかりとは・・・いかに知恵を絞るか? どうやったら被害者が帰るか? 北朝鮮と話し合わなければ意味がありません。制裁は法律で決まったとおりに自動的にやればいいことなので楽ですが、対話というのはタフな交渉です。相手は百戦錬磨、日本の外交官は3年で入れ替わる、これでは・・・

 なぜ、彼らは怒っているのか? 相手の視点をよく研究し、思考回路もよく考え、知恵を絞ってほしい。制裁、制裁、効果が無ければ追加制裁・・・これでは思考停止です。「拉致を利用して北朝鮮政府打倒」という声も出ます。麻生政権は倒れ、民主党はマニフェストに「拉致問題の解決に全力を尽くす」と書いてあるだけです。これ以後、新政府が方針転換をするか、鳩山さんの腕にかかっています。彼は「友愛・対話」を強調していますが、民主党には制裁一辺倒の人もいっぱいいますし、それには反対する人もいっぱいいて水と油が混在する民主党です。

 家族会のブルーリボンを鳩山さんは二日で外したんですが、麻生さんはずっと付けていました。それに何の意味があったか、聞いてみたいです。何も拉致問題は動いてないです。民主党は、よく自民党の政策を検討しなおしてほしい。ピョンヤン宣言から7年経ちますが、何も動いていません。

 日本政府はこれまで相当の失敗をしています。2002年の9・17・・・「5人生存、8人死亡」と北朝鮮が言ったことをそのまま流しました。陰謀・謀略の日です。それまで「当たらず、触らず」だったのに、あの一日で終わらせようとしたんです。国交正常化はいいんですが、拙速でした。「8人」の葬儀をして終わらせようとしました。マスコミも裏を取らず流しました。

 福田官房長官、植竹外務副長官が涙を流して「亡くなった」と。北朝鮮なら、そのまま受け取るしかないかもしれないが・・・私たち家族はそのとき、飯倉公館に隔離され、そして一人一人が呼び出され「死んだ」と断定されました。その間に小泉さんがサインしたんです。外務省の人に確認すると「めぐみさんの死体を見ていないから分からない」というのです。

 伝聞情報を確定情報にしたんです。「6人生存、7人死亡」でも「7人生存、6人死亡」でも良かったのではないでしょうか? 小泉さんは国交正常化を早くするために幼稚なシナリオを作ったんではないかと思います・・・あのピョンヤン宣言があるから今がある、と思うと複雑です。
あれから、無関心だった国民がいっせいに北朝鮮批判を始めました。北朝鮮が拉致を認め、謝ったのは、「そうしてくれると国交正常化する、経済協力する」と政府が言っていたのではないでしょうか? 北朝鮮は騙されたことになります。

 「5人の一時帰国」は、生きていることを国民に見せるためだったと思います。帰国した5人には涙を見せることは許されなかったのです。泣けば北朝鮮での人生を否定することになります。この時、弟は親を取るか、子どもをとるか、非常に厳しい選択を迫られました。弟を止めたのは私です。安倍さんや中山さんは「自分たちが止めた」といいますが、それはウソっぱちです。私が「弟は帰らない」と伝えて、そうなったんです。

 「これには北朝鮮との約束があるから」といろんな人から言われました。政府のスケジュール表には「お土産の購入」と書いてありましたから・・・しかし、そこで、二つ目の日朝間の約束が反故になりました。日本政府は国民には「そんな約束はしていない」と言ってましたが・・・この約束破りには私も責任があります。

 3つ目は小泉さんの再訪朝・・・これも失敗。4つ目はめぐみさんの遺骨問題。鑑定結果は裏目に出ました。4回も日本側は約束を破ったんです。これでは北朝鮮は納得しません。これを、どう打開できるか? 日本政府はよく考えるべきでした。本当は「4回も騙してすまん」「国交正常化できなくて、すまん」というべきなのに、なぜか、制裁に行ったのです。首相はコロコロ変わりますし・・・これでは解決しません。

 民主党はこの失敗をよく考えて新政策をとってくれることを望みます。国連の経済制裁では解決しません。私に「お前は黙ってろ」「お前のところは解決している」という人がいます。黙っているのは楽です。でも、帰ってきた5人だって辛いのです。「税金で外食してんじゃねー」「税金で旅行なんか、すんじゃねー」・・・絶対に、弟はパチンコなんか行けません。

 本当は24年間捜していた肉親が帰ってきたのだから大喜びしていいはずですが、まだ帰ってこない人のことを考えると辛いのです。母は「どんな顔をしていいか分からない」と悩みました。私に対し「よけいなこと、すんな」「足を引っ張っている」という声もあります。貝のように黙っていれば簡単ですが、こういう状況を訴えたいのです。

 何をもって「拉致の解決」というのでしょうか? 17人の認定者のうち5人帰ってきました。疑いのある人は300人から400人だといいます。「拉致問題の進展」とは? 「解決」とは? 政府は、はっきりと国民に示すべきです。

 ピョンヤン宣言には「らち」の「ら」の字もありません。でも、今は、北朝鮮との何のパイプもない中、唯一あるのはピョンヤン宣言だけです。これには「過去の清算」と書いてあります。「強制連行や『慰安婦』は無かった」とか「有った」とか言っている段階ではありません。小泉さんもキム・ジョンイルも署名したんです。だったら、それを早く進めるべきです。

 9・17の「5人生存、8人死亡」「ピョンヤン宣言に則り」というと、8人の死亡を認めることになるジレンマがあります。鳩山さんはこれを、どのように解決するのでしょうか? 地村さんが帰国して2年目の手記に「国交が樹立されていない。その不幸な歴史が拉致問題に背景にある」という趣旨のことを書いてありました。日朝両政府を責めることなく、歴史のせいにする・・・それが本心なら非常に悲しいです。

 北朝鮮の主張では「過去、何十万人も拉致した。日本人の十数人くらい」ということですが、確かに、日朝間の歴史問題を早く解決していたら、拉致の問題は無かったかもしれません。日本は面倒な問題を先送りしていき、そして歴史の闇に埋もれさせていきます。9月16日には鳩山政権が誕生します。大きく方針転換してほしいです。

 何年、制裁をしたか? 被害者は帰ってきたか? 核問題は解決したか? 包括的には解決できないんです。拉致問題はあくまでも日朝間の問題なんですから。クリントンは電撃訪問してジャーナリストを連れて帰りました。日本の記者は「アメリカは、ずるい」なんて言いました。何が? ・・・国民の命を守るのが政府の仕事です。表面、対立しながら、水面下ではアメリカが謝ったんですよ、「恩赦」なんですから・・・実に、したたかです。これこそ、真の外交です。

 核をやめさせるのも、本来、唯一の被爆国の日本がやるべきなんですが、アメリカの核の傘のもとで、悠々、暮らしている日本には言えないでしょう。北朝鮮は「日本に核を落とす」とか「アメリカに落とす」とか考えているのではない、と思います。対等な交渉をしたいためでしょう。
オバマも何を考えているのか、よく分かりません。北朝鮮に核を放棄させるにはアメリカの力が大きいのです。核保有国と認め対等に扱うかどうか・・・難しいでしょう。インドにはそれを認めたのですから、ダブル・スタンダードです。もともとNPTにはジレンマがあります。「俺は持っても良いが、お前は駄目だ」では説得力がありません。
 
 最近、一番、驚いたのは家族会の人物が田母神さんと同席して「田母神閣下」と呼んでいたことです(笑)。確か「村山談話を見直す会」という名前だったと思います。そんなことを言っていたら、拉致問題に皆さんの共感が薄れるのではないか、と心配です。7年も経つと関心が薄れます。テレビで「拉致問題が出てくるとチャンネルを変える」という人も出てきています。

 もう、制裁の時代じゃない・・・対話と交渉です。どんな民族でも対話とニゴシエーションなしには解決はありません。斉木アジア局長が約束した「制裁を緩める。そうしたら、(北朝鮮は)調査委員会を立ち上げる」で、まず、やってみればいいでしょう。でも、あれも日本側が約束を破ってしまいました。

 今、われわれがやるべきは制裁ではなく対話です。そのためには過去を、まず清算するのです。要はカネです。「北朝鮮は『日本は大金を持って謝ってくる』と期待している」と、弟は言っていました。制裁で困っているのは境港の人たちと在日の人たちだけです。これを効果があったというのでしょうか。まず、やるべきことをやるべきです。
 私は、そう思います。


 去年の10月25日の京都でお話を聞いたときも感銘を受けましたが、お話がより具体的、直接的、より率直になっているように感じ、心を打たれました。何も飾ることなく、自分の過ちも率直に認める正直な態度に、心からの敬意を感じました。

● 西野瑠美子さんの話(少々、疲労し、かなり、省略!? しています)
 蓮池さんの話を聞き、いろいろ考えさせられました。「対話が大切、コブシを振り上げても人の心は動かせない」ということでしょう・・・かつての蓮池さんなら、今回のような会で同じ場にいることはなかったのではないでしょうか? ここにいらっしゃるということが「対話」ということの意味を表していると思います。

 さて、最近『和解』という言葉が、多々、語られていますが、抵抗を感じます。「真の和解、平和、友好」・・・『真の』というのは、「和解」の内容を問うからです。ですから『和解ブーム』には違和感があります。

 3年前の2006年、朴ユハさんの『和解のために』という本が出て、朝日新聞は3回も大きく取り上げて「和解ブーム」に貢献しました。しかし、この主張は90年代南アフリカの「真実と和解委員会」・・・アルジェリアでもありましたが・・・とは違います。「挺対協は民族主義」とか「日本が来なくても売春は行われていたかもしれない」とか、「韓国軍もベトナムでは慰安所を経営していた」とか書いてあり、責任のスリカエ論です。「どっちもどっち」「もう、いいかげんにせえ」ということです。

 しかし、@被害者を置き去り、不在にして和解はあるのか? という危機感を持ちます。被害者無しの政治的・国家的な取引では和解にならないでしょう。
A過去の責任はいかに取るべきか? 「被害者の原状回復・補償」、それ無しには「わかい」でなく「はかい」となるのではないでしょうか?

 では、「真の和解」とは何でしょうか? 南アでは、長らく人種を徹底分類・分離するアパルトヘイト政策をとりましたが、1994年史上初の黒人大統領マンデラが、全ての人種平等の社会を目指しました。「何があったか? どんな人権侵害があったか?」真実を明らかにしようとしました。「何が過ちであったのか?」公聴会で被害者が述べ、加害者を特定する作業をしました。白人が大部分でしたが、黒人も少しいました。

「黒人による白人への復讐」が恐れられましたが、マンデラは「いかなる人種も共存していくのが目的」「制裁や復讐ではない」「加害者が全ての真実を語れば処罰しない」としました。そして3500ページに及ぶ報告書が出ました。これが全てのモデルケースになりうるかどうかは別にしても、日本はどうでしょうか?

 90年代宮沢さんが2度訪韓して調査し、日本軍資料、米英の公文書館などからも集めて400点に渡る「慰安婦」資料が出て河野談話が出ました。安倍さんも麻生さんも「河野談話を踏襲する」と言いました。しかし、ないがしろにしています。そのダブル・スタンダードは何でしょうか?
 
 07年米下院で「慰安婦」決議が出された時、日本政府は何をしたか? 8月25日の産経ニュースで、日本政府は決議阻止のためにロビー会社に45万ドル(4200万円)、支払っていることが分かりました。私たちの税金を使って「河野談話」と正反対のことをしたのです。被害者からはもちろん、世界の信頼を失いました。北朝鮮も、こういう日本政府の姿勢を見ています。

 日本政府がやっているのは、まさに「和解」とは正反対のことです。国連人権委員会をはじめ、様々な国際機関でも勧告され、日本でも宝塚市議会を皮切りに次々と「公的謝罪・補償・真相究明・『慰安婦は売春婦』だというウソに毅然と対応すべき、教科書に書いて真実を子どもたちに伝えるべき」という決議が出ているのに、政府は「解決済み」とします。蓮池さんの「北朝鮮は『拉致は解決済み』とする」といわれるのを聞いて同じだと感じました。

 ニューヨークの女性差別撤廃委員会でも、日本政府に対し厳しい質問が出ましたが「国民基金で個人に補償しようとしたが、被害者が受け取りを拒否した」と答弁し、なぜ、被害者が拒否するのかを言わず、被害者に責任を転嫁しました。蓮池さんの「9・17は政治家決着で、拉致被害者の人権・人格は無視された」といわれましたが、まさに、「被害者疎外の姿勢」は「慰安婦」の場合と同じです。

 91年のピョンヤンでの第1回国交正常化交渉以後、北朝鮮との交渉の中で、218人の方が名乗り出られましたが、申請はするものの、家族にさえ知られたくない、まわりにも誰にも知られたくない、という女性がたくさんいました。性暴力の被害者はそうです。証言していいといわれたのは43名でした。でも、今、証言できるのは数えるほどです。

 「拉致問題の解決なくして国交正常化なし」として政府は「過去の清算」と綱引きをして、今や膠着状態です。
 民主党政権は・・・自民党は不信感世界中に広げましたから、「自民党時代の過去の克服」も問題になるでしょうが・・・どうなるでしょうか。07年の米下院決議に対しては、民主党の議員もたくさん反対広告に名を連ねました。日本会議の会員も多いです。

 岡田さんは幹事長時代に「村山談話を受け継ぐ」といわれましたが、民主党の政策では「日本人拉致の問題、核問題の解決のために6者協議のテーブルに着かせるが、制裁は行う」とあります。市民が民主党に対し、声を届けなければなりません。