伊沢けい子議員の都議会での発言

八番(伊沢けい子君) 私は、東京都教育委員会がこの数年にわたって行ってきた教育現場、教育内容に対するさまざまな不当な介入、支配に対し、強い危機感を抱いており、今のままでは都民及び教員が東京都の教育に明るい展望を持つことができないのではないかと危惧をしています。

 国旗・国歌の強制、七生養護学園への性教育への介入など、教育委員会が行っていることは、思想信条の自由を踏みにじり、生徒たちから真実を学ぶ権利を奪っています。また、教育における自主性、創造性を大きく損ねるものとなっています。

 これらの出来事は、教育基本法十条「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。」との条項に明らかに違反をしています。

 国会でも教育基本法が論議されている最中ですけれども、教育を通して、この国の未来が私たちに大きく今問われています。教育は、憲法にうたわれている民主主義を実現するために大変重要な役割を果たしており、教育基本法の理念に「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成」とあることは、世界にも通用する普遍性を持った内容だと思います。子どもたちが国際社会の中で誇りを持って生きるために、こうした理念の教育実践が今こそ必要です。

 しかし、この理念を大きく揺るがし否定する動きが今東京都に次々と起こっています。
 第一に、去る四月十三日、教育委員会は、都立学校に対し、職員会議において挙手による採決を行ってはいけないという趣旨を含む通知を出しました。また、職員会議を中心とした学校運営から脱却することが不可欠とも書いてあります。これはまさに民主主義の否定であり、教員の教育現場での自主決定権を奪い、活気を奪うものであると思います。

どこの会社、組織でも挙手採決の禁止などということは聞いたことがありません。少なくとも、この都議会においても挙手採決を行っているのではないでしょうか。まさに学校で、子どもたちにどうやって民主主義を教えていくのでしょうか。
 
学校教育法二十八条では、校長は校務をつかさどるとあります。教育行政機関である教育委員会が、教育機関である学校の校長の校務である職員会議のやり方について通知を出すなどは、校務をつかさどる校長への干渉であり、学校教育法違反ではないのでしょうか。この通知の目的は一体何なのでしょうか。
 
第二に、教育内容への不当な支配を象徴するようなことが起こっておりますので、今、取り上げたいと思います。
 この三月、都教委は、中学校の社会科教員として三十三年間務めてきました増田都子教諭を、免職処分、つまり解雇することを行いました。増田教諭は、日本の侵略戦争の歴史の反省や平和と民主主義を教えることに努力し、授業の中で紙上討論という方法を取り入れ、教育効果を上げてきました。

紙上討論というのは、紙の上で討論をするということです。生徒同士、先生も交えて、戦争責任や原爆問題などのテーマを設けて、生徒たちに口頭ではなく必ず紙に意見を書かせて議論を深めさせてきたのです。中学生たちの意見を読むと、驚くほどしっかりとした意見を皆書いております。
 
昨年、増田教諭は、公民の授業で日本によるアジアへの侵略戦争と植民地支配について考えさせようと、韓国で盧武鉉大統領が行った三・一演説を生徒たちと読み、大統領に手紙を書くということを生徒たちと行いました。

増田教諭自身も手紙を書きました。その手紙の中で、都議会で、二〇〇四年、古賀俊昭都議が、日本は侵略などしていない、どこを、いつ、どの国を侵略したか聞いてみたいという発言を批判したということ、そして、東京都が採用している扶桑社の教科書を、歴史事実をつくりかえる歴史偽造主義と批判したことを不適切として、都教委は増田教諭を戒告処分にし、昨年九月、教壇から外したのです。そして、ことし三月までの半年間、都の研修センターに送り込み、三月に免職にしたのです。
 
そこでお尋ねをいたします。古賀都議が都議会で行った、日本はどこも侵略したことがないという趣旨の発言を増田教諭が批判したことを都教委が不適切とし、処分理由にしたということは、この発言を都教委は正しいと認識しているのでしょうか。
 
少なくとも、日本政府を代表して村山首相、小泉首相など歴代の首相も過去の侵略の事実を認め、政府として謝罪を行っています。また、日本が侵略を行ったことは紛れもない歴史的事実として世界的に知られていることですが、見解を伺います。
 
また、扶桑社の教科書はアジアへの侵略戦争を自存自衛の戦争としておりますが、このような歴史観を東京都は正しいと認識しているのでしょうか。
 
このような歴史認識は事実と明らかに異なっていると私は思いますが、百歩譲って事の真偽を一たん横に置いたとしても、授業の中で批判をすることさえ許されないのでしょうか。増田教諭が受けた研修の中で、教育庁の園田法務監察課長が、検定済み教科書はすべて正しいので、扶桑社教科書批判を子どもに教えることは公務員は許されないと指導したというのは本当でしょうか。
 
明らかに歴史的事実と異なることを批判したことをもって教壇から突然外し、研修を半年間も受けさせ、あげくの果て免職にするというのは異常ではないのでしょうか。つまり、都教委の考えに合わない教員はやめさせてよいということを意味し、その前例をつくろうとしているのではないでしょうか。これこそ権力の乱用というほかありません。
 
また、昨年から半年間にわたって都の研究所で行われていたことは、侵略戦争について教えていたことの反省を繰り返し迫るようなレポートを増田教諭に書かせるもので、これこそ教育基本法十条が禁止している行政による不当な支配、介入に相当するのではないでしょうか。
 
さらに、半年間にもわたり研修所という密室で行われていたことは、行政による教育内容への不当な介入であるほか、毎日、トイレに行った時間や携帯電話で話した時間、内容まで都職員が日誌に記録していたというのは事実でしょうか。その目的は何ですか。これは明らかに人権侵害ではないのでしょうか。
 
教員には教育基本法にのっとって真実を教える義務があるのであり、歴史的事実を具体性を持ってわかりやすく教えることがなぜ問題視されるのでしょうか。また、今ほど日本にとって、アジア近隣諸国はもとより、世界じゅうのすべての国々と友好関係を築けるのかどうかということが問われているときはありません。

そのようなときに、日本による侵略戦争を含む近現代史の事実を子どもたちに教えることはどうしても必要なことではないのでしょうか。そして、第一次世界大戦、第二次世界大戦の原因とその結末を、二度と戦争の過ちを犯さないためにも、子どもたちに教えることは非常に重要だと思いますが、見解を伺います。
 
既に免職処分は、今、国際的にも大変問題視されており、韓国のメディアでも大きく取り上げられました。また、盧武鉉大統領の側近の薛東根氏を通じて、増田教諭への支援のメッセージが寄せられているほか、五月に増田教諭は、釜山市で教員六百人、市民三百人を前に講演を行い、広く韓国の人たちの関心を集め、国際的にも注目を集めることとなっています。
 
最後に、米長教育委員についてお伺いします。
 米長氏は、最近、「週刊現代」などの雑誌上でさまざまなスキャンダルが報じられております。都教委はこれらの事実関係について調査をしていますでしょうか。これらの疑惑の真相を今都民の前に明らかにすべきではないでしょうか。もし事実だとすれば、教育委員として都民の信頼を裏切るものであり、辞任を求めるべきと思いますが、見解を伺います。
 
私が申し上げたいのは、都民にとっての教育の観点、国際的な観点からも、都教委は現在の不当な教育への介入、支配をやめなければ、教育現場における閉塞状況はますます強まり、国際的にも他国の人たちから不信を買うことになるということです。
 
職員会議での挙手採決を禁止した四・一三通知の撤回、そして増田教諭への免職処分の撤回を強く求めます。
 教育長の答弁を求め、再質問を留保いたしまして、質問を終わります。ありがとうございました。

   〔傍聴席にて発言する者、その他発言する者多し〕

議長(川島忠一君) ご静粛に願います。

   〔教育長中村正彦君登壇〕

教育長(中村正彦君) お答え申し上げます。
 順序は幾分違っているとは思いますけれども、まず、通知の目的でございますけれども、学校経営の適正化の通知を出した目的でございます。
 
学校内で教職員が活発な議論をすることは有意義でございます。ただし、一部の都立学校では、職員会議での採決によりまして校長の意思決定が制約されるという事態がございます。このような学校運営を改めまして、校務運営が校長のリーダーシップのもとで適正に行われるよう、今回の通知を出したところでございます。
 
次に、政府見解がありますけれども、政府見解については、都教育委員会はコメントする立場にはございません。それから、教員の教科書批判についてでありますが、教科用図書は国の教科書検定を経たものでございまして、教育委員会がその権限と責任において採択するものであります。
 
教科用図書を主たる教材として使用しなければならない立場にある教員が、授業中に特定の会社名を挙げて誹謗することは不適切であります。教職員センターにおける講師の発言でございますが、教育公務員が授業中に法令に基づく手続を経た検定教科書を批判することは、公教育に対する信頼を損なうものでございまして、とりわけ中等教育初期段階にあります中学生に対する授業中の発言としては不適切でありますといった趣旨の発言をしたというふうに聞いております。

 次に、教員の処分についてであります。
 公立学校教員の懲戒及び分限処分につきましては、地方公務員法に規定された処分事由に該当する場合に限り行われるものでございます。
 都教育委員会は、客観的に認定された職員の具体的な行為が、法令に照らして、懲戒または分限事由に該当するかどうかを慎重に判断した上で処分を行っております。
 
それから、教職員センターでの研修についてでありますが、研修は、学習指導法の改善に関すること、教育公務員としての資質向上に関すること、その他都教育委員会が必要と認める課題について行ったものでございます。
 
研修において、受講者の課題について、レポートの作成を含めて適切に指導したところでございます。したがって、このことは不当な支配には当たりません。それから、研修において人権侵害があったかのようなご指摘がございましたが、当該研修は、内容、場所、時間を指定して行う勤務としての研修でございます。個人が勝手に研修場所を離れることはあってはならないことであります。

 したがって、研修の開始や終了の時刻、離室状況、研修の中断等を記録することは、当該教員の研修状況を把握するため必要なことでございます。
 
それから、近現代史の指導についてでありますが、中学校学習指導要領には、昭和初期から第二次世界大戦の終結までの我が国の政治、外交の動き、中国などアジア諸国との関係、欧米諸国の動きに着目させて、経済の混乱と社会問題の発生、軍部の台頭から戦争までの経緯を理解させるというふうに示されております。近現代史の指導は、学習指導要領に基づき、計画的に指導すべきものでございます。
 
最後に、米長委員の件でございますけれども、ご指摘の事柄につきましては、一部の週刊誌によります報道にすぎませんでして、事実確認をする考えはございません。

   〔八番伊沢けい子君登壇〕

八番(伊沢けい子君) まず、職員会議の件ですけれども、適切な学校運営のために、職員会議が阻害していると。そのために校長の決定権が弱まっているというのはおかしいんじゃないでしょうか。
 
それでは、例えばここの都議会におきましても、都議会が阻害要因になって、そして知事にすべてを決めてもらう、これと同じことを今学校で行おうとしているといえないでしょうか。それじゃ、まるで私たちの都議会自体も否定していることになると私は思いますが、いかがでしょうか。
 次に政府見解についてでございますけれども、これについてコメントしないというお返事でしたけれども、コメントしないということは見解がないということで、侵略についてもコメントしないということは、逆にいえば増田先生が行った批判について不適切ということもできないのではないかと私は思います。おかしいんじゃないでしょうか。
 本当は都教委は……

   〔傍聴席にて拍手する者あり〕

議長(川島忠一君) 傍聴人に申し上げます。ご静粛に願います。
 傍聴人に申し上げます。ご静粛に願います。

八番(伊沢けい子君) 都教委は、本当のところ、明らかなる意図を持っていながら、こういうふうに聞きますとコメントしないというのは非常におかしなことだと思います。こんなことが通用するのでしょうか。

 それから、米長教育委員については事実確認をしないといいますけれども、今の報道によって多くの都民の不信感を買っていることは事実であります。こういったことを、少なくとも疑惑がある以上はそれを明らかにするのは当然のことではないのでしょうか。
 以上質問いたします。ぜひお答えください。

   〔教育長中村正彦君登壇〕

教育長(中村正彦君) 伊沢けい子議員の再質問にお答え申し上げます。
 まず、政府見解に対してですけれども、教科書によりまして、歴史的な事実の記述につきましては、占領、侵略などさまざまあることは承知しております。いずれも国の教科書検定を受けたものでございまして、教科書の内容、あるいは政府見解に対して東京都教育委員会はコメントする立場にはございません。

 それから、職員会議の件ですけれども、学校運営を学校の自主性に任せるというふうな趣旨だと思いますけれども、すべての都立学校が、校長の経営方針のもとに企画調整会議等で教職員の意思把握を行うとともに、そこで議論を深め、最終的に校長が決定するという手続を確立することが重要でございます。

 東京都教育委員会は、校長のリーダーシップのもと、適正な学校運営が行われるよう支援していく責務がございます。
 それから、米長委員の件でございますけれども、重ねて一部の週刊誌による報道にすぎませず、事実関係について確認する考えはございません。